平成11年4月1日より新たに感染症予防法が施行されました。
文部科学省ではこれを受けて学校(幼稚園・保育園)における伝染病予防について見直しを行い、学校保健法施行規則が一部改正されました(この規則は幼稚園や保育園にも準用されています)。
教育の場であり、集団生活の場でもある学校では、健康な状態で教育を受けるようにするため、また望ましい学校環境を維持するために伝染病の流行を防止することがとても大切です。このため感染症の中でも人から人へ伝染する病気(伝染病)の予防に関して必要な事項を定めています。 これが「学校保健法施行規則」です。
伝染病予防と登園・登校停止
学校保健法施行規則では学校伝染病が発生した場合、伝染病を排除するために、また、児童の生徒の健康管理のために、校長は伝染病にかかっていたり、その疑いがある児童・生徒の出席を停止させることがあります。
A 登園・登校停止が必要な伝染病と登園・登校基準 |
分類 | 病名 | 登園・登校停止期間のめやす | |
第一種 | コレラ 赤痢 腸チフス 等 |
治癒するまで | |
第二種 | インフルエンザ | 解熱した後2日を経過するまで | |
百日咳 | 特有な咳が消失するまで | ||
麻疹 | 解熱した後3日を経過するまで | ||
流行性耳下腺炎 | 耳下腺腫脹が消失するまで | ||
風疹 | 紅斑性の発疹が消失するまで | ||
水疱瘡 | すべての発疹が痂皮化するまで | ||
咽頭結膜熱 (プール熱) |
主要症状が消退した後2日を経過するまで (ただし、病状により医師が伝染のおそれがないと認めたときは、この限りではない) |
||
結核 | 医師により伝染のおそれがないと認められるまで | ||
第三種 | 腸管出血性 大腸菌感染症 |
症状は改善し、医師により伝染のおそれがないと認められるまで | 無症状性病原体保有者には登園・登校停止は不要 |
流行性角結膜炎 急性出血性結膜炎 |
眼症状改善し、医師により伝染のおそれがないと認められるまで |
B条件によって登園・登校停止の措置が必要と考えられる伝染病 |
分類 | 病名 | 登園・登校停止期間のめやす | 留意事項 |
第三種 その他 |
溶連菌感染症 | 適切な抗生剤治療後24時間を経て、解熱し、全身症状態良好となったとき | 一般的には、5〜10日程度の抗生剤の内服が推奨される |
ウイルス肝炎 | 主要症状消失し、肝機能正常化したとき | B型肝炎・C型肝炎の無症状性病原体保有者は登園・登校停止は不要 | |
手足口病 ヘルパンギーナ |
咽頭内でのウイルス増殖期間中飛沫感染するため、発熱や、咽頭・口腔の所見の強い急性期は感染源となるが、解熱し、全身症状安定していれば、出席停止の意義は少ないので登園・登校可である | 一般的な予防法の励行 | |
伝染性紅斑 | 発疹期には感染力はほとんど消失していると考えられるので、発疹のみで全身状態良好なら登園・登校可能である | 妊婦の感染に注意 急性期の症状の変化にも注意 |
|
マイコプラズマ感染症 | 感染力の強い急性期が終わった後症状改善し、全身状態良好なら登園・登校可能である | ||
流行性嘔吐下痢 | 下痢、嘔吐から回復し、全身状態良好なら登園・登校可能である |
C通常登園・登校停止の措置は必要無いと考えられる伝染病 |
分類 | 病名 | 留意事項 |
第三種 | アタマジラミ | ジラミの駆除。爪切り。タオル、くし、ブラシの共有さける。着衣、シーツ、枕カバ−、帽子の洗濯と熱処理。発見したら一斉に駆除することが効果的である。 |
水いぼ | 原則として、プールを禁止する必要は無い。しかし、二次感染のある場合は禁止とする。多数の発疹のある者はプールでビート板や浮き輪の共有をさける。 | |
とびひ | 病巣の処置と被覆。共同の入浴やプールは避ける。炎症症状の強いものや広範なものでは病巣の被覆を行い直接接触を避けるよう指導 |
(京都府医師会 Be Well vol.20より)
最近、階段を登るときにドキドキする。いやに汗をかくようになったと感じることはありませんか。暖かくなってくると、こんな症状で医療機関に来られる患者さんが増えてきます。同じ症状でも年だからしかたない、体力が落ちてきたのだと思って我慢されている方も多いものです。
こんな訴えの方で、意外に忘れられているのが、甲状腺(こうじょうせん)の病気です。甲状腺は首の前、いわゆる"のどぼとけ"の下にあって蝶の形をしています。甲状腺ホルモンの工場です。甲状腺ホルモンは人間が生きていくために、なくてはなりません。
そんな大切な甲状腺ですが、ホルモンをたくさん作り過ぎると、いろいろな不都合がおこります。ちょっと動いただけなのに心臓がどきどきする、汗が出てすぐに下着がベトベトになるなどの過剰症状が出てきます。食欲が旺盛でよく食べるのにやせてくる。指や手が震えて、字を書くのが苦痛になってくることもあります。学生さんでは落ち着きがなく勉強に取り組めないこともよくあります。
このような甲状腺ホルモンが過剰となる病気の代表はバセドウ病です。アメリカではグレーブス病と呼ばれています。そのため、わが国でもグレーブス病と呼ぶことも多くなっています。この病気を治療しないで放置すると心臓が悪くなったり、クリーゼという死に至る状態となることもあります。
日常よく遭遇する症状に意外な原因の潜んでいることもあるのを知っておいてください(相楽医師会 飯田泰啓)。
(京都新聞 2004年5月19日)
2002年の調査では日本で糖尿病が強く疑われる人と発症している人をあわせて1620万人、成人の3人に1人に異常がみられるといわれています。
以前に健康診断で糖尿病の気があるといわれたが、やせてくる、のどが渇く、尿が多くなるなど本に書いてある症状はないし、大丈夫だろう? そんな方が多いのです。
糖尿病が初めて出たときにはこんな症状が出ることが多いのですが、健診で見つかったような方はほとんど症状がありません。初めに治療して良くなるとそのまま放っている方が過半数だといわれています。薬やインスリンの注射はいやだし、一生続けないといけないと聞いたからという理由で治療を中断する方も大勢あります。
糖尿病から血液透析をしている方は今では慢性腎炎からの透析の方より多くなっています。毎年約4000人の方が糖尿病が原因で失明されています。
糖尿病は生活習慣病の代表です。自動車の普及・脂肪の摂取量の増加と比例して糖尿病を持つ人が増えています。糖尿病にならないためには体をよく動かし食物繊維をたくさん摂るようにすること。もしも糖尿病がすでに発症していたら、血糖値をできるだけ正常に近くして2次的な合併症を防ぐことが大切です。食事や薬、注射など治療方法を問わず血糖値を正常にすることで合併症を防げることがいくつかの研究で明らかになっています(相楽医師会 小出操子)。
(京都新聞 2004年6月9日)
夜中にわが子が高熱を出すと、親は不安で心配なものです。こんな時、救急の診察が必要か判断するためにお子さんを観察してください。まず咳や嘔吐、腹痛など他に症状がなかったか考えます。次に、子供の体を頭のてっペんから足の先まで観察します。顔つき、目つきなど元気な時と変わりないか、発疹がないか、耳や首筋、おなかなどを触り痛みがないことを確認します。
熱以外に症状がなくて子供の機嫌がよい場合には、解熱剤を使わずに様子をみて下さい。高熱で機嫌が悪い場合は、解熱剤を使用するなどして、まず熱を下げましょう。解熱とともに具合がよくなれば翌朝にかかりつけ医を受診しても遅くはありません。
ゼイゼイと荒い息をしたり、アシカの声のような咳で呼吸が苦しい場合、嘔吐・腹痛を伴う下痢、血便のある場合、熱の程度以上に不機嫌だったり普段興味のあるものにも無関心で様子が変な場合は応急の診察を受けてください。救急外来を受診しても翌朝は必ずかかりつけ医の診察を受けましょう。救急医にとって普段みていない患者を1回の診察で的確に診断するのは難しいものです。
ひきつけを起こしやすい、肺炎になリやすい、吐きやすい、下痢しやすいなど子供の体質はさまざまですので、お子さんの急病時の対処法をかかりつけ医と普段から相談しておくことが大切です(相楽医師会 長井隆夫)。
(京都新聞 2004年6月30日)
高血圧はポピュラーな病気であり、日常生活や環境と密接に関連する「生活習慣病」のひとつです。血圧は心臓が収縮するとき(最高血圧)、拡張するとき(最低血圧)に動脈にかかる圧力を測定しています。WHO(世界保健機関)では最高血圧140以上、最低血圧90以上を高血圧としています。
血圧は1日の中でも種々の要因でかなり変動します。特に精神的な影響が大きく、医師が測定する時に限って上昇する場合がしばしばみられ、これを「白衣高血圧」と呼称しています。
そこで自宅で測定する「家庭血圧」の把握が大切になります。大半の人が家庭血圧は医療機関に出かけて測る時の血圧よりかなり低い値を示します。
最近は上腕や手首、指などで血圧を測定できる自動血圧計が市販されています。上腕で測るタイプが正確な上、安価なのでお薦めです。手首、指などで測定するのは手軽ですが信頼性に欠けます。測定は1日1〜2回、毎日ほぼ同じ時間帯で測定してメモかグラフにして記録しておくのが良いでしょう。神経質になって1日に何回も測定したり、1回の測定で何度も繰り返すのはあまり良いことではありません。高血圧の一部には原因になる病気が隠れている場合があります。そうした病気の診断を受け、家庭血圧を正しく評価した上で適切な助言を得、生活指導や治療を気軽に相談できる「かかりつけ医」を持つことが大切です。(相楽医師会 池田文武)
(京都新聞 2004年7月21日)
胸が一瞬つまる感じや、ドキンとした感じを経験された方もあるかと思います。
恐らく不整脈の一種の「期外収縮」です。年と共に頻度が増加する傾向がありますが、時には若い人でも疲労や深酒、喫煙、夜更かしなどで不整脈が出ることがあります。その他、不整脈にはいろいろな種類があります。
不整脈とは一般には「脈の乱れ」理解されているかもしれませんが、脈が規則的であっても心電図上、不整脈と診断される場合もあります。
通常の心電図で不整脈が記録されない時には負荷試験や24時間記録のホルター心電図、電話回線利用の携帯型記録伝達装置などが用いられます。
不整脈のなかに「心房細動」という脈の打ち方が一定しない不整脈があります。これは時には心臓の中に血栓ができて他の臓器の血管が詰まることがあり、脳に血栓が飛んだ場合に「心原性脳塞栓(そくせん)症」といいます。長嶋茂雄さんの病気だと言えば思い出していただけるかもしれません。
不整脈には基礎疾患が無いことも少なくないのですが、原因となる病気が存在することもあります。心筋梗塞(こうそく)を含む虚血性心疾患、高血圧症、弁膜症、心筋症、心不全、甲状腺の病気や、ある種の心電図異常などです。治療を必要とする不整脈か、不要な不整脈かの判断は不整脈それ自身の性質、基礎疾患の有無、個人の病歴、および経過などが関係します。(相楽医師会 一瀬進)
(京都新聞 2004年8月11日)
診察の場でいろいろな患者さんに会い、時には教えられ時には文句を言ってきました。
そこで感じたことを少し言わせてもらいます。少しでも患者さんのアドバイスになれば、と思います。
診察や病気について分からないこと、違うのではと思うことがあればどんどん医者に質問してください。
昔は医者は「私にまかせなさい。質問なんかイラン」と言っていました。このごろは様変わりしました。質問ウェルカムです。きっと丁寧に説明してくれます。
さて病気はイヤなものです。でも扱いひとつです。生活習慣病なんか隣人みたいなものです。やるべきこと、生活上・食事上の注意をすれば、あとは必要以上に意識しないで気楽に付き合って下さい。ニコニコ付き合えばストレスもかかりません。決して退治しようなどと思わないで、多少、身体のあちこちに問題があってもあるがままに受け入れてやりましょう。
もちろん医者に相談して、問題があれば解決へ努力しましょう。でも、とらわれ過ぎると、時として虫眼鏡で症状をみてしまいます。するとアリが怪物になって襲いかかってくるような錯覚にとらわれます。アリはアリのままでよいのです。
身体は長く使っているのです。多少「ガタ」がきていても認めてやりましょう。病気があったり支障があっても、自分らしく生きるのにさほどの問題がなければよしとしましょう。(相楽医師会 桑原 洋史)
(京都新聞 2004年9月1日)
日本では、1年に約10万人が胃癌(がん)に罹(かか)り、約5万人が胃癌で死亡しています。
胃癌の死亡率は年々減少傾向にあり、手術例の約半数は早期癌ですが、手遅れの癌もまだ後をたちません。
胃癌と診断されたら、まず癌がどの程度進んでいるかを正確に判断することが重要です。早期のものであれば、90%以上治すことができるようになりました。早期であれば胃カメラで切って治すことが可能な場合もあります。少し進んだもので手術が必要な場合でも、腹腔(ふくくう)鏡というカメラを使って比較的小さな傷で手術することも可能になってきています。進んだものでも、進み具合をよく調べて、手術に耐えられる体力があるかを十分調べ、それに見合った過不足のない手術をすれば50%程は治るようになりました。
手遅れと言われても、諦(あきら)めずに根気よく抗癌剤などで治療し、癌が小さくなれば、手術をして治すことができる可能性もあります。まず、大切なことは症状がなくても年1回は胃の定期検診を受けることです。必ずしも検診で最初から胃癌が見つかるとはかぎりませんが、精密検査で思わぬところに小さな癌が見つかることもあります。
できるだけ早く発見し、よく調べ、その人の癌の進行状況と体力に見合ったオーダーメードの治療をすれば、胃癌はもっと治るようになると思います。(相楽医師会 公立山城病院外科 中川 登)
(京都新聞 2004年9月22日)
日本では肉食、高脂肪食の増加などにより大腸癌(がん)が増加傾向にあり、年間約9万人が大腸癌に罹(かか)り、約3万6000人が大腸癌で死亡しています。
大腸癌も早期なら大腸カメラで切って治せる場合もあります。少し進んでいて手術が必要な場合でも、腹腔鏡というカメラを使って比較的小さい傷で手術できるようになってきています。
進んでいても腸閉塞(へいそく)になったものでも、詰まったところに肛門から大腸カメラで管を通して腸閉塞を治してから手術をします。特に肛門に近いところにできた癌は、人工肛門にしなければならないことがあります。できるだけ人工肛門をつけずに手術できるよう努力がなされています。また人工肛門になっても、洗腸という方法をもいちれば24時間以上、排便処理をせずにすむ場合もあります。
癌が膀胱(ぼうこう)や子宮に浸潤していても、これらを一緒に切除すれば、治る可能性もあります。肝臓に転移しても、抗癌剤と手術を組み合わせてうまく治療すれば効果が期待できるようになってきました。大腸ポリープと言われた人、痔(じ)がなかなか治らない人、下痢や便秘が続き、治らない人は進んで検査を受けましょう。早期発見と、癌の進行状況と体力に応じたオーダーメードの治療をすれば、大腸癌はもっと治るようになるはずです。(相楽医師会 公立山城病院 中川 登)
(京都新聞 2004年9月29日)
右脇腹やみぞおちが痛み、検査の結果、胆石があり胆嚢炎(たんのうえん)を起こしている、と言われた。こんな場合は、まず抗生物質で治療します(できれば入院して絶食)。胆嚢炎が治らなければ、胆嚢に管を入れての治療が必要な場合もあります。その後、胆管など胆嚢以外の場所に石が見つかれば、カメラで十二指腸から石を取り出します。その後手術です。
最近はお腹(なか)に4ヶ所穴をあけて、腹腔鏡というカメラとマジックハンドのような道具を使って手術ができるようになりました。しかし胆嚢炎が強かった人、他の病気でお腹の手術を受けたことのある人などで胆嚢周辺の癒着が強い場合や、心臓に問題のある人などは、お腹を切って手術をせざるを得ない事もあります。
手術以外の治療では、胆石を溶かす薬もありますが、薬の効かない石も多く、効いても薬を止めると再発することが多く、油ものも食べれません。
超音波などで石を崩す方法もありますが、崩れない石もあり、再発することもあります。高齢者で胆石のある人には胆嚢癌(がん)が隠れていることもありますので、治療の基本は手術と考えられます。胆石の状況と、体力に応じたオーダーメード治療により、最も侵襲の少ない有効な治療を選ぶことが大切です。(相楽医師会 公立山城病院 中川 登)
(京都新聞 2004年10月6日)
妄覚とは感覚刺激を間違って感じることを言い、錯覚・パレイドリア・幻覚があります。暗がりで落ちている縄を見たときに蛇に見間違うような、刺激を正しく感じ取らず別のものと受け止めたときは錯覚といわれます。月のウザギのように、ある物だと分かっていて別の物のように意味づけて感じ取るときはパレイドリアといいます。
錯覚もパレイドリアも刺激があって違うものと感じるのですが、幻覚は刺激が無いのに刺激を感じたと認識することをいいます。意識がはっきりしていて、例えばアメリカからの話し声が聞こえていると感じたような感覚を幻聴といいます。無い物が見えると感じたときは幻視、無いにおいは幻臭、無い味は幻味、触られていないのに触られたと感じるのは幻触(体感幻覚)といわれ、五感すべてで幻覚が起こります。
寝入る直前や徹夜して極端に疲れている時に誰かに呼ばれたように思うなどの空耳のように、精神状態が極めて不安定な時にも幻聴を感じることがありますから、幻覚のすべてが要注意とは言い切れませんが、特別に精神的な緊張がないときや意識の混濁がないのにしばしば幻覚を感じるときには精神科医の診察を受けてください。
約50年前から精神状態の不安定を取り除く薬がいろいろ作られ、正しく使うと症状から生じる苦痛を改善する効果を挙げています。
(相楽医師会 加茂町高齢者福祉センター 西沼 啓次)
(京都新聞 2004年10月27日)
その考え方が間違っていると誰がどのように説明しても、その考えを正しいと信じて訂正することができない考えを妄想といいます。
ものとられ妄想もその一つです。
お年寄りは、大事なものをしっかりとしまって置いたためにその場所を忘れて、捜した所に見つからない時に誰かにとられたと考えやすくなることがあります。その時に、身近な誰かがとったと言い出したりしますともっと困りますね。お年寄りにとっては、お金に限らず身の回りの物が無くなることは自分が無くなっていくような強い不安に襲われるためのようです。そんな不安から、いきなりとられたと考えやすいのでしょう。その時には、お年寄りと一緒に捜して、お年寄り自身が第一発見者になれるように(仕組んで!)発見に協力しましょう。自分で発見すれば疑いは消えやすいものです。
自分の次に大事なものがお金ですと、その人なりに身近に置いていないと不安になる金額があるようです。そのお金が無いと不安が極限になり、とられたになるのでしょう。「お迎え」は常に不安ですから、大金は自身の野辺の送りの費用ではないかと思われるのですが、無一文でも大丈夫と安心されるような毎日を家族でつくってあげてはいかがでしょうか。誰も理解できない修正不能な妄想は、念のために精神科医に相談して下さい。(相楽医師会 加茂町高齢者福祉センター 西沼 啓次)
(京都新聞 2004年11月3日)
ストレスは何かに加えられる力のことですから、すべての刺激がストレスです。人が立っているのは重力という刺激に耐えていますから、重力もストレスの一つです。刺激を何もかも「ストレス」と言ってしまうのは考えものですが、若者がしゃがみ込んだり地べたに座るのは、立っていることが「ストレス」になるからなのでしょうか。
ストレス・コーピングとはストレスにどう対応するか考えることですから、若者が地べたに座り込むのもその方法の一つでしょう。大人でも列車が何時間遅れるか分からない時には「新聞紙でも敷いて」座り込みますから。
ストレス・コーピングの方法は多様ですが、信頼できる人に考えを話すことで「自分が見える」のは良い方法の一つです。最近は対人関係で強いストレスを感じる人が多いですが、相手の感情を勝手に推測し、先手を打ち間違いの無いよう対応しようとして、相手の情報を十分に知らないうちに気を使い、推測する条件が多くなりストレスになるのでしょう。そんな時のストレス・コーピングは、十分な情報を得た上で判断し対応することです。コミュニケーションを十分にして判断する余裕を相手にも持ってもらうことだと思います。そのためには、まず相手に自分の情報を多く知らせる「お話し」をすることです。井戸端会議などではそうしていませんか。(相楽医師会 加茂町高齢者福祉センター 西沼 啓次)
(京都新聞 2004年11月10日)
診療所を受診する理由の中で一番多いのが、どんな原因かは別にして、体の痛みによるものでしょう。腰痛、肩こり、慢性頭痛などはだれでも経験する痛みです。腰痛では整形外科を受診するのが一般的です。身体の異常をいろんな方法で検査して投薬、理学療法を受けます。これらで改善されない時には「手術」によって治療されます。
消化器外科に対して消化器内科があるように、整形外科に対して「メス」を持たない治療法、「整形内科」があります。「ペインクリニック」と呼ばれ、慢性の腰痛、肩こり、頭痛、癌性(がんせい)の痛みなどを和らげる痛み緩和治療のことです。
「ペインクリニック」といっても分かりにくいので「整形内科」と私が勝手に呼んでいるだけで、世間にそんな医師がいるわけではありません。しかし、こう呼ぶことによって、親しみを感じていただけるのではないでしょうか。
「メス」を持たない代わりに何を使うのでしょうか。1962年(昭和37)にペインクリニック外来ができた時は麻酔科の医師が中心だったので、局所麻酔薬による神経ブロックが今でも多くなされています。注射器に局所麻酔薬をいれて、痛みの神経を一時的にマヒさせるのです。
一時的にでも痛みから楽にすることは、体にとって非常にありがたいことです。(相楽医師会 柳沢 衛)
(京都新聞 2004年12月8日)
ペインクリニック(痛み緩和治療)には腰痛、肩こり、頭痛など、日常よくあり頑固だが重傷ではない痛みを抱える患者さんが多くこられます。おさえて痛い部位に局所麻酔薬を注射する「トリガーポイント注射」は、当面の痛みを除去する方法として広く行われています。
そんな痛みとは正反対にあるのが、癌性疼痛(がんせいとうつう)といわれる癌治療の最後に出くわすしつこくて強い痛みです。この痛みを少しでも取り除くために、医師は家族とも協力して患者さんと共に痛みに立ち向かいます。
効果の強い麻薬を神経ブロックに用い、呼吸困難におちいらないように内服や座薬で投与します。注射薬の場合には、副作用を減らすために1週間かけてゆっくり注入する方法があります。
内服をしにくい場合、70時間ほど効果が持続する貼付薬(てんぷやく)が開発されて用いられています。
癌性疼痛を持つようになった患者さんも、在宅での療養を希望されることが多くなりました。疼痛を在宅で管理できる環境が整いつつあり、癌性疼痛でも半分程度にまでその痛みを緩和することは在宅のままでできるようになりました。
癌の痛みだからとあきらめずに親しみ馴染(なじ)んだ家で家族と暮らしていきたいものです。(相楽医師会 柳沢 衛)
(京都新聞 2005年1月5日)
外傷(けが)には軽症から重症までさまざまなものがあります。軽症の患者さんは自分で外科系の医院や一般病院の救急外来を受診し、外科系当直医(ほとんどが若い先生たちです)の診察を受けます。中等症の患者さんは二次救急病院にて、主に消化器外科医、整形外科医、脳外科医の先生たち(外傷患者さんばかりを診療している先生はいません)が診療します。
重症で救急車を呼びますと、救急隊員または救急救命士の判断(トリアージ)で、重傷度に応じて一次救急病院(外来のみ対応可能)から、二次救急病院(緊急手術が可能)、さらに救命救急センター(24時間365日受け入れ可能で、重症または多発外傷を扱う)に運ばれます。
日本では若年者の死因の第1位は外傷ですが、救急外傷の診療は欧米に比べ非常に遅れています。医科大学での外傷教育はほとんどなく、外傷専門医の不足、外傷システムの不備などさまざまな課題があります。しかし、近年、行政・京都府医師会・三つの救命救急センター(京都第一・第二赤十字病院、国立病院機構京都医療センター≪旧国立京都病院≫)・消防局等が協力し、病院前処置(市民〜救急隊〜医師へ)の迅速な連携を進めています。
救命救急センターは、京都府内では京都市に3カ所ありますが、残念ながら同市以外にはありません。せめて府北部と南部に1カ所ずつは欲しいところです。(相楽医師会 田内 逸人)
(京都新聞 2005年1月26日)
熱傷(やけど)はちいさなものを含め、国内で年間100万人以上が経験しているともいわれます。ちいさなやけどは誰もが一度は体験しています。熱傷の程度は、深さと広さで判断します。
T度(皮膚が赤くなる) ヒリヒリ痛みますが、水で約15分冷やすだけで数日中に治ります。
U度(水疱《すいほう》みずぶくれができる) 強く痛みます。U度のうち浅いものは水疱が破れるときずになりますが、治療を受ければ1〜2週間で治ります。しかし、それより深い場合は適切な治療をしてもきずあとやひきつれが残ることもあり、治るのに1カ月以上かかることもあります。衣服は無理やり脱がさず、水で冷やし、水疱は破らずに病院を受診して下さい。熱傷の広さが身体の15%以上になると入院が必要になります。
V度(皮膚が黒こげ、時に白っぽくなめし革のようになる) 痛みを感じないことが多い。自然治癒は難しいので、救急隊の救急救命士の判断で、全身管理のできる救命救急センターへ運ばれます。基本的には入院して植皮術などの外科的治療が必要です。
やけどは予防が大事であることは言うまでもありません。家庭でよく原因となる風呂のたきすぎ、てんぷら油、ポットの湯などには特に注意しましょう。乳幼児のやけどは重症につながることが多く、周りの大人が十分に用心する必要があります。(相楽医師会 田内 逸人)
(京都新聞 2005年2月2日)
耳鼻咽喉(いんこう)科の診療をしていますと、「のどがはしかい」「のどに何かがある感じ」「つばを飲むときにひっかかる感じがする」と訴えて来院される方が多くあります。食事中にも違和感を感じておられる方は、高い確率で何らかの異常が発見されますが、食事中に症状を感じていない方も多く、原因も多岐にわたります。
検査は直径3〜4ミリの細い軟らかい内視鏡(ファイバースコープ)でのどの中を観察しますが、最近では機器の進歩により画像を鮮明に映し出せます。実際の観察時間も30秒程度です。
咽頭癌(いんとうがん)や喉頭癌(こうとうがん)などのどの癌や、甲状腺の良性腫瘍(しゅよう)や癌(触診と超音波検査で発見します)が原因のこともありますが、のどの炎症、アレルギーや首の筋緊張(こり)が原因であることもあります。中には検査しても原因が不明のこともあります。
また近年では、胃酸が食道やのどに逆流して胃酸の慢性的な刺激により、のどの粘膜の一部が炎症を起こして症状が出る例が比較的多いこともわかってきています。特に高脂肪食を好んで食べる方、過食気味の方やお酒をよく飲む方は要注意で、「胸やけ」といった症状をよく伴います。こうした症状は内服治療で改善します。
のどの違和感でお悩みの方は、とりあえず耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。(相楽医師会 鈴木 慎二)
(京都新聞 2005年2月23日)
「目がぐるぐる回る」「ふらつく」「ふわふわした感じがする」「立ちくらみする」といった症状はめまいと呼ばれますが、原因は脳疾患、脳および首の血管障害、内耳の異常、貧血、自律神経失調やその他の神経疾患など多岐にわたります。めまい以外に「ろれつが回らない」「顔や体の左右の感覚がちがう」などの症状を伴う場合は脳や神経疾患が疑われますが、めまいと吐き気のみの症状を繰り返す方の中に耳性のめまいが多くみられます。
内耳には半規管や前庭といって、頭のバランスをとっている器官があり、その部分の不調により、回転性めまい、ふらつき、ふわふわした感じといった症状が出現します。内耳には音を感じ取る蝸牛(かぎゅう)という器官も存在するため、難聴、耳鳴りや耳がふさがった感じがするという症状を伴う場合は、さらに耳性のめまいである可能性が高くなります。その代表疾患としてメニエル病がありますが、内耳の血流障害から内耳にむくみを生じて、めまい、耳鳴りや難聴が出現します。日々の生活の中でもストレスが多い方に発症しやすいですが、逆に退職後や生活が単調な方にも見られます。
難聴の自覚がなくとも、聴力検査では難聴が出現しており、気付かないうちに難聴が進行している場合もあります。繰り返すめまいでお悩みの方は、耳鼻咽喉(いんこう)科の受診をおすすめします。(相楽医師会 鈴木 慎二)
(京都新聞 2005年3月2日)
心臓病の救急治療はめざましく進歩し、治療を受けた患者さんの多くが助かり、元の生活に戻ることのできる時代となりました。しかし、医療機関に到着するまでに心停止してしまう、"心臓突然死≠ヘ依然として多く、日本では毎日100人に及んでいます。突然死を減らすために、昨年、欧米に続いて日本でも医師以外による心臓電気ショックが許可されました。心臓突然死のほとんどは"心室細動≠ェ原因です。心室は血液を送り出すポンプで、心室細動とは、この大切なポンプが小刻みに痙攣(けいれん)して血液を送り出せなくなる状態です。数秒で意識を失い、数分続くと死に至ります。治すには電気ショックが必要で、早いうちほど心室細動は治りやすくポンプの働きも戻りやすくなります。心室細動が始まって3分以内の電気ショックで7割、5分以内で5割の方が助かりますが、10分以上では救命が難しくなります。救急車が来る前に近くに居合わせた人が電気ショックを行うことが必要です。
初めてでも扱える電気ショックの器械、"自動体外式除細動器(AED)≠ヘ、京都駅や山城総合運動公園、関西学研都市記念公園など多くの施設に備えられてきています。音声による指示に従って器械を操作すると自動的に心電図が解析され、必要な場合のみ適切に電気ショックが加えられます。次回はこの器械の使い方をお話しします。(相楽医師会 平田 理佳)
(京都新聞 2005年3月30日)
心臓突然死から命を救う自動体外式除細動器(AED)。米国では公共施設や一部の家庭にまで普及し、高い救命率をあげています。日本でも公共施設に配備されつつあります。
倒れた人(8歳以上対象)が呼びかけに反応せず、呼吸も体動もなければ、119番に電話し、AEDを運びます。2−3`と持って走れる重さです。
@AEDのふたを開け、電源ボタンを押すと、音声の指示が始まります。
A「電極を接続してください」。電極に描かれた図に従い、2枚の電極を右胸上部と左脇腹の皮膚に貼(は)ります。胸が濡(ぬ)れていたら拭(ふ)き取り、ネックレス等の金属は避けて貼ってください。
B「患者から離れてください。解析中」。器械が心電図を分析します。
C必要な場合にのみ、「患者から離れてください。通電ボタンを押してください」と指示されます。指示に従うと電気ショックが行われ、必要な場合はBCの手順が繰り返されます。
D電気ショックの必要がなくなれば、「通電は必要ありません」と告げてくれます。「それでもなお呼吸が不十分で体動がなければ、人口呼吸と心臓マッサージを行うよう」指示されます。
一般の方を対象に、消防署や医療機関が、AEDを用いた新しい心肺蘇生(そせい)術の指導を始めました。どうか機会をとらえてご参加ください。(相楽医師会 平田 理佳)
(京都新聞 2005年4月6日)
痛いところがあるのは、誰でもいやなものです。体のどこかが少しでも痛いと、とても気になりますし、気分も晴れません。
では、人間から痛みが全くなくなってしまったらどうなるのでしょうか。例えば、けがをしても気付かず、それが原因で化膿(かのう)してしまうかもしれません。熱いものにも気付かず、火傷(やけど)をしてしまいます。
膝(ひざ)などの関節ではどうでしょうか。関節には、痛みを感じる神経がたくさん集まっていますが、特殊な神経の病気や脊髄(せきずい)の病気のときに、関節の痛みを全く感じない状態になることがあります。こうなると、関節のなかがどんどん破壊されていきます。関節が、びっくりするくらい曲がったり、腫(は)れたりします。それでも、痛みは全くありません。結局、変形のために歩けなくなります。
もうお分かりですね。関節の痛みというのは、人間が長い年月にわたってつくりあげてきた、力加減を調節する大切なセンサーなのです。痛みという感覚が全くなくなれば、体の機能を破壊してしまいます。痛みは防御するための大切な感覚なのです。だから、痛いと感じているにもかかわらず、無理をして何かをするのはあまり良くないことです。(相楽医師会 山下 豊)
(京都新聞 2005年4月27日)
秋から春にかけて流行する胃腸炎の原因となる代表的なウイルスには、ノロウイルスやロタウイルスなどがあります。ノロウイルスは11月ごろから多くなり、ひと冬中流行します。今年初めにはお年寄りの施設で何人かが罹患して亡くなられたことが報道され、有名になりました。
ロタウイルスは毎年3月ごろが流行のピークとなります。京都府南部では今年、5月に入ってもまだ患者さんが多く、例年より長引いているようです。治療薬がなくても自然に治る病気ですが、細菌感染が合併したり、脱水が起こると重症になることがあります。
脱水の治療は点滴しか方法がありませんでしたが、近年は経口輸液(ORS)がよく用いられるようになってきました。激しい下痢では、水分をとっても吸収されず、まるでオシッコのように腸から出てしまい脱水が進行します。ORSは世界保健機構(WHO)が医療設備の整っていない発展途上国のコレラ患者さん向けに開発した飲料水で、食塩、ブドウ糖、重曹、塩化カリウムを水に溶かしただけのものですが、コレラのような激しい下痢の時にでも水分がよく吸収されます。
普通のスポーツ飲料は成分が薄いため下痢の時には効果的ではありません。最近、WHOのORSによく似た成分の飲料水が入手しやすくなりましたので、医療機関で相談されることをお勧めします。(相楽医師会 小堤 國廣)
(京都新聞 2005年5月11日)
「痛みが動く?!」
診察の現場で、患者さんによく聞かれることがあります。
「先生、先週まで腰が痛かったのに、今日は右膝(ひざ)が痛むんです。あれだけ腰痛がひどかったのに、今週に膝の痛みが強くなってから、腰はとっても楽なんです。痛みが回ってるんでしょうか?」
それは人間が、体のどこかの炎症などのある部分を、頭の中、つまり脳の一部で、痛みとして感じ(認識し)ているからです。脳の中には、体のそれぞれの部位に対応した痛みを感じる場所があるのですが、ある場所が強い痛みを感じると、他のそれより痛みのレベルが低い場所のことはあまり感じなくなるようです。一番強い痛みを感じている部位の炎症が治まると、次に強く痛みを感じていた部位が、頭の中では一番大きくなっていくようです。先ほどの患者さんも、膝の治療によって炎症が治まると、こう言われるはずです。「先生、先週右膝があれだけ痛かったのに、今日はまた腰が痛いんです。体の中を痛みが動いてますな!」
「痛みの記憶」
人間の記憶で「すごいなぁ!」と関心することがあります。それは、「痛み」ということについて、痛かったという事実は覚えているのですが、痛みそのものを頭の中で再現することはできません。もしできたら、痛くてたまりませんよね。(相楽医師会 山下 豊)
(京都新聞 2005年6月15日)
産婦人科の診察室、更年期症候群の患者Aさんがこぼしている。このごろ何かとカーッとのぼせて汗がだらだらでるわ、汗びっしょりになってすぐに着替えなけりゃいけないわで、ろくに買い物にも行けません。何かもっといい薬はありませんかいな。そう言えば、嫁の調子が悪くてげえげえやっとるもんで、子供でもできたんかと聞いたら、ちゃんと生理があったというもんでなあ。はよう孫の顔でもみたいわなあ。
いつものことながら、あちこち話が脱線している。聞くとお嫁さんが胃のレントゲン透視を受けるというので、市販の妊娠テストで調べるだけは調べなさいとアドバイスした。翌日、Aさんがお嫁さんをつれて跳んできた。3回妊娠テストをしたが、3回とも陽性にでたという。ちゃんと生理があったのにというお嫁さんに妊娠初期にはちょっとした出血があることがあって生理と間違うことがあると説明して、超音波検査を行うと子宮内に小さな胎児が手足を動かしているのが見えた。それも2人!Aさん、自分の妊娠の時はこんなにみえるものはなかったといいながら、お嫁さんと大喜びしている。
Aさんが超音波検査のビデオテープをお父さんにも見せると持って帰るのをみながら、これで、更年期障害もかなり軽くなるだろうと期待した。若い女性のレントゲン検査は慎重に、とつぶやきながら。(相楽医師会 久間 正幸)
(京都新聞 2005年7月6日)
産婦人科の診察室、更年期症候群の患者Aさんがこぼしている。うちの嫁さん、お腹(なか)の赤ちゃんにいいからと私があれこれ持っていくのに、ちっとも食べてくれないんですよ!お腹の中に2人いるんだから3人分食べろなんていいませんし、量はほどほどってことはわかってますよ。でも妊娠中にはあれもこれもとらなきゃいけないでしょう...。
ほんとにわかってるのかな!?そういえばこの間の妊娠健診では、お嫁さんの体重増加が多かったことを思い出した。この過干渉はなんとかしなくちゃいけない。
Aさんのカルテを見ると、血液検査で少しだけだが血糖値が高いことを示す赤いマーク。Aさんは、栄養指導を受けるように、とおもむろに宣告された。
さて栄養指導の当日、Aさんはお嫁さんも来ているのにびっくりした。2人して神妙に栄養指導を受けているのを横目でみて、担当医は1人ほほ笑んだ。指導する栄養士さんにはもちろん耳打ちしてある。Aさんは、医師の本心を察したのか、それ以降お嫁さんに余分な食べ物を持って行くことはなくなった。
妊娠中の余分な体重の増加は難産のもと、病気のもと、妊娠後の肥満のもと、と医師はつぶやいた。(相楽医師会 久間 正幸)
(京都新聞 2005年7月13日)
ここは分娩(ぶんべん)室、いよいよAさんのお嫁さんの分娩が始まった。初産で双子、なかなか陣痛が強くならない。控え室ではAさんがおろおろしている。もちろん新米パパになる予定のAさんの息子さんも来ている。
ようやく、子宮口が全開に近づく。「もうすぐですよ」と助産婦さんのはげます声。Aさんの息子さんがビデオカメラを持って分娩室に飛び込んできた。1人目出産、元気な赤ちゃん。まだもう1人。双子のお産は2人目のほうが危険だ。「胎児心音の急な悪化です」と助産婦が叫ぶ。吸引で出した赤ちゃんは元気で無事。ほっと一息ついたとたんに、お母さんがどーっと出血。やはり双子は出血が多い。
突然、床でどたんと音がした。目をやるとそこにAさんの息子さんの顔がある。よく見るとAさんの息子さんが倒れていた。出血をみて気を失ったらしい。男性に時々あるタイプだ。応援を呼んでこの新米パパを控え室に運び出す。Aさんはまたまたおろおろしている。出血はほぼ止まり、Aさんの息子さんも気がついた。そして、新米パパ、ママ1人ずつ赤ちゃんを抱いて記念写真、医師も入ってもう1枚、Aさんとスタッフ全員も入ってさらに1枚。おめでとう!
赤ちゃんの泣き声の二重奏のなかで、担当医のつぶやき―「分娩室でパパになるなら、その前に両親学級を受けましょう!」(相楽医師会 久間 正幸)
(京都新聞 2005年7月20日)
結核の死亡率は昭和30年以後年々減少しているものの、集団感染を引き起こすこともあり、危険な病気であることに変わりありません。くしゃみや咳(せき)で空気感染しますが、十分な免疫力があれば発病には至りません。体力が低下している高齢者や乳幼児、糖尿病・手術後・副腎皮質ホルモン薬を服用中の人は注意してください。
咳や痰(たん)、微熱が2週間以上続いたり、血痰、胸痛、体重減少などの症状があれば医師を受診してください。疑いがあれば胸部X線検査や喀痰(かくたん)検査を行いますが、確定診断が困難なこともあります。BCG接種は生後6ヶ月までに受けましょう。万一発病しても、髄膜炎など重症になるのを防ぎます。ただ効果は10〜15年といわれています。結核菌によく似た菌で「非定型抗菌症」があります。これは年々増える傾向にあり、治療法も少し異なります。菌の遺伝子を調べることで、結核菌と判別できるようになりました。
いずれにしても過度のダイエットや偏食を避け、栄養バランスのとれた食生活を心掛けてください。不摂生を避けて睡眠をよくとり、ストレス溜めないこと。禁煙も大切です。食器や食べ物からの感染はありません。紫外線に弱いので、感染者の布団や衣服はよく干してください。発病を防ぐには体力の保持と早期発見が大切です。年に1回は胸部X線検査を受けましょう。(相楽医師会 藤木 新治)
(京都新聞 2005年9月14日)
健康志向の高まりと医薬品への不信感から、さまざまな健康食品が販売されています。私は推奨していますが、「食品だからたくさん摂っても安全」との誤解を生んでいるのも事実です。
「きのこ類」は免疫を賊活させる効果がありますが、肝障害が報告されましたし、ドクダミ茶やウコンでもまれに肝障害があります。黒酢は時に胃腸障害を引き起こしたり血糖を上昇させることもあります。どんな成分がどれだけ含まれているのかを確かめて飲用してください。ココアには銅が含まれてあり、貧血や骨強化に効果はありますが、便秘になることが多く、消化管の術後の人にはすすめられません。植物油は摂り過ぎると善玉コレステロールが低下することもあります。青汁は腎障害のある方は控えたほうがいいでしょう。
老化防止や美肌効果でブームになっている「コエンザイムQ10」も過剰摂取による安全性は未解明です。ビタミンCの過剰はある種の安定剤の効果を低下させ、腎結石の原因にもなります。ビタミンEはワーファリン(抗凝固剤)の作用を強めることもあり、たとえビタミン剤であっても何のために使うかよく検討することが大切です。サプリメントは摂取不足になりがちな成分を補給するという意味では非常に有用ですが、健康はあくまで通常の食べ物や運動によって維持すべきで、安易に頼るべきではないと思われます。(相楽医師会 藤木 新治)
(京都新聞 2005年10月19日)
今日、放射線は医療の領域で病気の診断や治療に利用され、健康を守るために大いに役立っています。放射線には、X線(胸・腹・骨等の検査)、ガンマ線(アイソトープ検査や癌治療)、ベータ線・電子線など(癌などの治療)があります。
X線は、体の臓器や病気の種類により透過の程度が異なるので病気の診断に役立ち、また写真にすることができ、蛍光を発生させる性質により透視でみることができます。これを利用し、種々のX線検査による診断のみならず治療にも応用されています。
近年、X線診断の中心的役割を担っているのがコンピューターを用いた装置、代表的なのがCT検査で、体の断面がより鮮明に得られるようになっています。これまでに不可能であった頭部・胸腹部など全身における病変の診断が可能になり、画期的に進歩しました。
またX線による診断手技が、治療(IVR:放射線診断技術の治療的応用)にも利用されています。このIVR治療は、透視像を確認しながら体内に細い管や針を入れて病気を治療します。手術を必要としないため身体に与える負担が少なく、病巣の場所だけを正確に治療することができ、高齢者や状態の悪い進行癌を含めた癌の治療に応用でき、緊急状態(出血など)からの救命や血管などの閉塞に対する治療に有効な治療方法となっています。(相楽医師会 松尾 尚樹)
(京都新聞 2005年11月16日)
放射線は細胞の増殖を抑えかつ細胞を壊すことでがんなどの治療に貢献しています。X線、コバルトやラジウムからのガンマ線による治療が主でしたが、最近はリニアックと呼ばれる高エネルギーX線や電子線(電気的に作り出すベータ線)さらに重粒子線・中粒子線などが用いられています。ガンマ線を利用する検査にアイソトープ(RI)検査があります。体の特定部位(脳・心・骨など)に集まることが知られている放射性医薬品を注射することによって体内の分布状態や動きをみることができ、病気の診断ができます。この検査は注射をするだけでできるので楽な検査といえます。最近ではコンピューターの進歩とともに検査精度も非常に高くなっており特殊な薬と装置を用いれば脳・心などの局所機能がわかり、病気の診断に役立ちます。これはPET(陽電子)とSPECT〔ガンマ線)として機能診断のみならずがんの診断にも積極的に利用されています。放射線は病気の診断や治療になくてはならないものですが、反面、用い方を誤れば危険なこともあります。しかしX線を主とした放射線からもたらされる診断や治療という大きな利益に比べて、危険という不利益を問題にならないくらい少なくして安全に利用するよう医療機関では努めています。(相楽医師会 松尾 尚樹)
(京都新聞 2005年11月23日)
肥満は、皮下脂肪型と内臓脂肪型に分けられます。皮下脂肪型は腹・腰・大腿・臀部などの皮下につくもので、洋梨型とも呼ばれています。一方、内臓脂肪型はりんご型とも呼ばれ、腹部とその周りの内臓に蓄積し、外見で分からない場合もあり、本人も肥満であると気付かないといったタイプです。
近年、内臓脂肪型の人は、糖尿病・高血圧・高脂血症などのいわゆる生活習慣病の発症率が高く、心筋梗塞などを起こしやすいといわれています。一方、皮下脂肪型の人は発症率が高くないことも分かっています。従って、単に体全体に脂肪が蓄積しているかではなく、ある局所に強くたまっているかを知ることが、肥満を知るうえで非常に重要な点であります。この体脂肪の分布を知ることで、生活習慣病の発見に、また発症の予防につながると考えられています。
脂肪の分布を知るには、腹が出てきたとか、ウエストとヒップ周りの比率が大きいかどうかで自己判断もできますが、現在では、内臓脂肪の蓄積の程度を、腹部のCT撮影などをすることで定量的に表現することが可能となっており、生活習慣病の発見に貢献しています。健康診断で肥満を指摘された方は、内臓脂肪型があるかを医療機関で判断していただき、適切なアドバイスを受けることをお勧めいたします。(相楽医師会 松尾 尚樹)
(京都新聞 2006年1月11日)
冬になりますと鼻の出血がおこりやすくなります。空気が冷たく感想しているため粘膜の炎症がおこりやすくなり、寒さのため血圧が上がりやすくなることが関係したりします。鼻の疾患で出血を伴いやすいものとして、粘膜の過敏症(アレルギー)、炎症(副鼻腔炎など)や腫瘍性病変があげられます。その他では、高血圧、肝機能障害、血小板の少ない方、血小板擬集仰制剤や抗擬固剤を内服している方があげられます。
鼻出血で問題となるのは、15〜20分以上たっても止まらない場合や頻繁にくり返して生活に支障をきたす場合です。鼻の入り口に近い部位からの出血であれば、出血部の粘膜を焼い(電気凝固)たり、奥の方からの出血であれば鼻の中につめものをしたりします。
特に奥の方からの出血の場合は動脈性のことが多いため、出血の勢いが強く、中には血管内塞栓手術が必要になることもあります。
出血時の対処法ですが、まず座った姿勢をとり、頭を前にうつむかせ、鼻の両方の入り口を指で完全にふさいで、ゆっくりと口で呼吸をしながら、鼻の中で血が固まって止血されるのを待ちます。出血時はとかく動揺しやすいですが、気持ちを落ち着かせないと血圧が高い状態が続き、止まりにくくなります。
今の季節、鼻の出血が心配な方は、外出時にはマスクを忘れずに、気持ちにゆとりをもって生活する必要があると思います。(相楽医師会 鈴木 慎二)
(京都新聞 2006年2月1日)
耳の中がつまった感じ、ふさがった感じ、あるいは耳の中に水が入ったような感じがして気になっておられる方は意外と多いのではないでしょうか?一時的で自然と治まる場合もあれば、持続する場合もあります。
原因は多彩で、@外耳A中耳B内耳と耳の中のあらゆるところの異常で上記の症状があらわれます。
まず、@外耳(鼓膜の外の耳の穴)の異常では、耳垢の充満、耳かきなどの刺激による耳の穴の皮膚の炎症や腫れ、分泌物(耳だれ)などがあります。
A中耳(鼓膜の奥の空気の入った部屋)は鼻と耳管という細い管でつながっており、鼻炎などのせいで鼓膜の奥の換気が悪い場合や液が貯蓄した場合に生じます。
B内耳(音を感じ取る部分)の異常は、循環障害やウイルスの関与で起こります。普段から肩や首の凝りがある方に多くみられ、疲れ、ストレス、風邪などの体調不良から生じることもあります。
日々診療していて、特にB内耳に原因がある例が多い印象を受けます。また、上記以外でも自立神経系が関与するもの、より脳に近い聴(きこえの)神経に異常がある場合もあり、実に多彩です。耳がつまった感じで不安を感じておられる方は一度、耳鼻咽喉科を受診してください。(相楽医師会 鈴木 慎二)
(京都新聞 2006年2月8日)
膀胱炎は、頻尿、排尿痛(特に排尿週末時)、尿混濁(血尿または膿尿)が3大症状です。膀胱炎では普通発熱はなく、38度以上の熱がある場合には腎盂腎炎にかかっている可能性が高く、治療を急ぐ必要があります。
膀胱炎が女性に起こりやすいのは、尿道が短く太く、外陰部の常在細菌が膀胱まで上がってきやすいからです。男性に起こる場合、ほとんどで前立腺肥大症など他の病気があります。正常の膀胱粘膜は細菌に対する抵抗力が強く、仮に膀胱内に細菌が入ったとしても膀胱炎が起こるとは限りません。過労、下腹部の冷えなどで体の抵抗力が弱ると、膀胱粘膜に細菌がすみ着いて膀胱炎を起こしてしまうのです。
初期の膀胱炎では、水分をしっかりとって菌を洗い流すことで自然に治る場合がありますが、基本的には抗菌薬の服用が大切です。
薬を飲む時にはかかりつけ医と相談し、尿の細菌培養検査で細菌の種類を調べ、どんな薬が効くのか検査してもらうのが良いでしょう。もし初めに渡された薬があまり効かず、薬を変える必要がある場合に役に立ちます。
また、症状がなくなったからといってすぐに薬をやめてしまうと、再び菌が繁殖する場合もありますので、医師に指示された期間は薬を飲み続け、飲み終えてからもう一度、尿がきれいになっているか調べてもらうことが大切です。(相楽医師会 伊藤 英晃)
(京都新聞 2006年3月1日)
腎臓の主な働きには、@血液が運んできた老廃物(蛋白質の代謝物である尿素窒素やクレアチニンなど)の排泄A体内の水分量を一定に保つ働きBナトリウムやカリウムなどのミネラルや酸・アルカリのバランスを保つ働きC赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)や血圧上昇にかかわるホルモン(レニン)の分泌D骨を作るのに必要なビタミンDの活性化−などがあります。
慢性腎不全とは、腎炎、糖尿病などが原因となって腎機能が低下した状態です。@〜Dの働きが低下していくと、吐き気、むくみ、全身倦怠感、貧血、高血圧、骨障害などさまざまな症状が顕著になっていき、腎機能が正常の約10分の1に低下すると、透析療法が必要となります。逆に言えば、腎機能を10分の1まで低下させなければ、透析への移行をかなり先に延ばすことができるのです。
そのためには、低蛋白食、病気に応じた高カロリー食・塩分制限といった食事療法、腎保護作用のある降圧剤等による降圧療法、尿毒素を消化管で吸着して便に排出する経口吸着剤療法、腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤の使用、浮腫・カリウム・酸のコントロールなどによる総合的な治療が必要です。慢性腎不全イコール人工透析と思わずに、先生とよく相談して、積極的に治療に取り組んで下さい。(相楽医師会 伊藤 英晃)
(京都新聞 2006年3月29日)
みなさんはピロリ菌をご存じですか。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、そして胃がんなどの原因として注目されている胃の中にいる細菌です。 胃の中は酸性が強く、普通の生物は生きていけません。しかしピロリ菌はウレアーゼという酸素を使って胃の中にある尿素をアンモニアに変化させ、胃酸を中和して生きているのです。
日本人では年齢とともにこの細菌を持つ人が増え、40歳以上では約75%がピロリ菌を持っています。経口感染がほとんどで、母親から子供への感染、特に一度口に入れた食べ物を子供に与えることが主な経路と言われています。
ピロリ菌を除菌すると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発が抑えられることが分かっています。胃や十二指腸潰瘍の方は、健康保険でピロリ菌の診断や除菌治療が受けられます。長く腹痛に悩まされている方や何度も潰瘍が再発して困っておられる方には除菌をお勧めします。
5月20日午後2時から、精華町のけいはんなプラザで開く相楽医師会の市民公開フォーラム「おなかの病気」では、川崎医科大学の春間賢教授に「ここまで解かった胃の病気」と題してピロリ菌をはじめとする胃の病気の最新情報を、京都第一日赤病院の木村浩之副部長には「進むB型肝炎・C型肝炎診療ーきっちり診断、しっかり治療」を講演していただきます。入場無料で、定員は400名(当日先着順)です。(相楽医師会 飯田 泰啓)
(京都新聞 2006年4月19日)
認知症とは、意識障害がなく、記憶障害や認知機能障害が長期にわたって持続し、日常生活に支障をきたす状態です。記憶障害とは、いわゆる物忘れのことです。また認知機能障害とは、判断力、言語能力、計算力などの低下を指します。
ところで、認知症の方には暴言や徘徊などの困った症状を記憶障害、認知機能障害だけで説明することは困難です。
最近、そのような症状と大脳のある特定部位の障害との関連性が注目されています。大脳の前の方にある「前頭前野」は大脳に取り込まれたさまざまな情報をとりまとめ、状況に応じてどのように行動するのかを決定し、実行、あるいは制御する役割を果たしています。
この部位のどこかに障害が起こると、創造力や洞察力、応用力が低下し、一つのことに集中できないとか、周囲に注意を払うことができなくなります。また場をわきまえずにおしゃべりをしたり、ちょっとしたことですぐに怒るとか、無気力になることもあります。
認知症の問題行動は「前頭前野」の障害を反映しているものが多いと考えると、理解しやすいと思います。(相楽医師会 山田 悦雄)
(京都新聞 2006年5月24日)
認知症の簡易テストとして日常の診療によく利用されるものに「長谷川式簡易知能評価スケール」や「ミニ・メンタル・ステイト・テスト」があります。これらのテストでは、今自分がどこにいるかが問われたり、また計算力や記憶力等が評価されます。しかしこれらのテストでは、認知症を前頭前野の異常という面から評価するのには十分といえません。
前頭前野は大脳に入ってきた情報をまとめ、状況に合わせた対応を導き出す役割を果たしています。この機能を調べる簡便なテストに「かなひろいテスト」があります。このテストは、簡単な文章を読み取りながら「あ・い・う・え・お」の文字を見つけるというもので、同時に複数の課題をこなせるかどうかを評価します。このテストと前述の認知症の簡易テストを組み合わせることで、早期に老人性認知症の診断ができる可能性があります。実際、老人性認知症で日常生活に支障が出始めているのかな?と思えるような方の中には、認知症の簡易テストの成績は割合良いのに「かなひろいテスト」の成績が悪いというケースをしばしば経験します。
認知症の診断には、画像検査を含めさまざまな面から検討していくべきですが、簡単なテストの組み合わせが認知症の早期発見につながる可能性もあるのです。(相楽医師会 山田 悦雄)
(京都新聞 2006年5月31日)
一部の例外を除き、認知症根本的な治療法はないのが現状です。生活習慣病のなかには認知症の発症にかかわるものがあり、生活習慣病を予防あるいは治療することは非常に重要なことです。しかし、認知症になるかならないかを事前に予測することは困難です。
ところで、認知症に伴う問題行動はその人の病前性格を反映していることが多いなと感じることがあります。例えば、もともと頑固で怒りっぽい人が認知症になってしまうと、暴言や暴力が問題となる場合をよく経験します。
これは大脳にある前頭前野の機能が悪くなって抑えがきかなくなった結果、病前性格の悪い部分が強調されたと考えることができます。また無趣味な人が認知症になりやすいとよくいわれていますが、これは前頭前野への刺激が少なかったことを反映しているという見方があります。
前頭前野は大脳に入力された情報をまとめたり、状況に合わせた対応を導き出す役割を持っているのですが、この領域は生後から20歳ごろまで発達し、特に乳幼児期にその発達の程度が著しいといわれています。認知症による問題行動の多くが前頭前野の異常に関連しているということと考え合わせると、認知症の対応策というのは育児や教育にまでさかのぼって考えなければいけないのかもしれません。(相楽医師会 山田 悦雄)
(京都新聞 2006年6月7日)
日本の出生数は減りに減って、ついに人口減少社会を招くところまで来てしまいました。分娩を取り扱う産婦人科医が減るのは仕方のないことかと思っていましたが、今や少子化以上のスピードで産婦人科医が減少しています。産婦人科が若い医師に敬遠されている理由は、拘束時間が長い、リスクが高く訴訴が多い、他科に比べ当値が多いなど、報道されているとおりです。
しかし、これらは今に始まったことではなく、過去において産婦人科を志す者が少なからずいたのは、苦労を上回る魅力がそこにあったためにほかなりません。ところが、いつのまにか、若い世代には選んでもらえない寂しい科になってしまいました。私たちの世代は魅力を感じて、あるいは面白そうだからという理由で飛び込んでいったものですが、2年間で複数の科をローテーションする新しい臨床研修制度が発足してからはそうではないようです。この短い研修期間中に産婦人科独特のやりがいを理解してもらうのは難しく、苦労ばかりが目に付いてしまうのは仕方がないことかもしれません。
こうした状況は悪化の一途をたどっています。これから医師になろうとする人たちに産婦人科の魅力を上手に伝える方策が見つからなければ、近い将来「むかし、お産を取り扱う医者がいたらしい」と言われる時代が来るのではないかと危惧されます。(相楽医師会 えくにくわはら産婦人科小児科クリニック 江國豊)
(京都新聞 2006年7月19日)
「当院は畳の上でのお産がほとんどで、分娩台は2〜3ヶ月に1回使う程度です」という話をすると大抵の妊婦さんは驚かれます。「仰向けですか?横向き?それとも四つんばいですか?」。全て正解です。なかにはそれら全てを体験されるかたもあります。分娩台が悪いわけではありませんが、たとえ3畳の空間でも分娩台より、はるかに自由な空間です。立ったり、座ったり、横になったりと痛いときには自分が好きなポーズをとれるほうが、分娩台の上で時間を過ごすよりはるかに楽であることは間違いありません。
また、妊婦と家族を包み込む空間でもあります。畳での分娩を始めて何列目かの時に、分娩で呼ばれて駆けつけてみると、妊婦さんの手をご主人が握って、おばあちゃんも横にいて、上の子供はご主人の膝のうえに、ちょこんと座っている光景が目に飛び込んできました。昔はこれが当たり前だったのでしょうが、夫の立ち合い分娩を認めるか否かで、もめていた勤務医時代にはありえなかったことです。さらに、生まれたばかりの赤ちゃんをお母さんのお腹の上にのせるカンガルーケアをしても下に落とす心配がないので大丈夫です。
それでは畳の分娩はいい事ずくめかというと、そうではありません。自由に動く妊婦さんにあわせて介助するスタッフは、腰痛、肩こり、筋肉痛に悩まされています。いつか労災で訴えられるのでは、とびくびくしています。(相楽医師会 えくにくわはら産婦人科小児科クリニック 江國豊)
(京都新聞 2006年7月26日)
小児外科とは、手術が必要な子供の病気を扱う科です。山城病院には孤立した『小児外科』はありませんが、外科の中の1部門として常時、小児外科の病気に対応しています。子供の病気ですから、まず小児科(開業医、病院)を受診されることでしょう。そこで小児外科疾患の疑いがあれば紹介してもらうということになります。
どのような病気があるかと言いますと、まず新生児期には、生まれつき腸の一部が閉鎖していたり、おなかの壁の形成が悪く腸がとびだしていたりするびょうきなどがあります。これらは直ちに処置が必要なものが多く、最近では産科の先生が胎児超音波で異常を指摘し、出産前から我々、小児外科医が関わる場合もあります。
次に乳幼児期には、ソケイ部(脚の付け根)が腫れるソケイヘルニア、男児では精巣が陰嚢に触れない停留精巣などがあります。腸重積という、放置すると腸が壊死を起こす危険性が高い病気もあります。高度の便秘で紹介があるのもこの時期です。
学童期以降には虫垂炎など大人と同様の病気が増えてきます。また熱傷、外傷、交通事故、外表奇形などにも対応します。手術でできる傷によって将来お子さんが悩むことになる場合もあるでしょう。そういった点にも配慮しながら治療法を決定していきます。(公立山城病院 小児外科 今津正史)
(京都新聞 2006年8月23日)
小児外科では最も多い病気で、山城病院では年間約30例の手術を行っています。泣いたり、排便時などにお腹に力がかかると腸がソケイ部(脚の付け根)に脱出し、膨らむことで気付かれます。そのため脱腸と呼ばれることもあります。
子供のヘルニアは生まれつきの病気で、ソケイ部にお腹の中とつながった袋があることが原因です。この袋の中に腸が出てきたり、女の子の場合は卵巣が出てきたりします。1歳までに見つかることが多いのですが、学童期まで気付かれないこともあります。
ヘルニアが軟らかい場合、まず心配いりませんが、緊満し、痛がるようなら要注意です。この状態を「ヘルニアかんとん」といい、脱出した腸管が袋の出口で締め付けられた状態になっており、放置すると腸が腐る恐れがあります。1、2時間程度あやすなどして様子をみてもらい改善しなければ、受診して下さい。ほとんどの場合、用手的に(手で)戻すのですが、無理なら緊急手術が必要です。
手術時期は、1歳まではヘルニアの袋が自然に閉鎖することもあるといわれ、様子をみています。それ以降に行いますが、「ヘルニアかんとん」を繰り返す場合は早めに手術をします。当院では1泊2日の入院でやっています。以前は脱腸帯がヘルニアの治療に用いられていましたが、効果の不確実性、脱出臓器を傷つける危険性などからこのごろは勧められません。(公立山城病院 小児外科 今津正史)
(京都新聞 2006年8月30日)
一般病院の小児外科でソケイヘルニアの次に多い病気が虫垂炎です。いわゆる「もうちょう」のことです。右下腹部で小腸が大腸に入ります。この大腸の始まりの部分が盲腸です。虫垂は盲腸から垂れ下がる5〜8センチのミミズのような細い臓器です。この虫垂の根元が詰まって、内腔に膿がたまり、炎症を起こした状態が虫垂炎です。
虫垂が詰まるのは、もともと狭いこともあれば、石ができたり、またリンパ組織が腫大したりすることなどが原因です。症状は、大人では上腹部痛や吐き気から始まり、次第に右下腹部痛が明らかとなるのが典型的で、年長児ではこのような経過をたどることが多いのですが、年少児でははっきりしません。食欲不振と微熱が最初の症状であったりします。ただこうした場合でも右下腹部を押さえて嫌がるようなら、虫垂炎を疑ってください。
診断は、採血で炎症反応を認め、超音波またはCTで腫れた虫垂が確認されれば、まず間違いありません。子供の虫垂炎は一般に進行が早く、穿孔しやすいと言われています。穿孔し腹膜炎になれば、回復に時間がかかります。ですから診断がつけば手術を勧めています。手術は炎症を起こした虫垂を切除するわけですが、穿孔していなければ手術後3、4日で退院しています。山城病院では、子供の虫垂切除術は年に15例ほどで、このうち3、4例が穿孔性虫垂炎です。(公立山城病院 小児外科 今津正史)
(京都新聞 2006年9月6日)
習慣的喫煙者の多くが「ニコチン依存症」という病気です。今年4月からこの「ニコチン依存症」の治療に医療保険が使えるようになりました。治療対象としての条件もあり、まだ限られた医療機関のみですが、多くの禁煙希望者には朗報です。今週はその条件や治療可能な医療機関の探し方をお知らせします。
「ニコチン依存症」であるかどうかは、たばこ依存スクリーニングテスト(TDS)で判定されます。TDSの10日間の設問のうち5問以上にあてはまり、喫煙指数(1日の本数×年数)が200以上の禁煙希望者が治療の対象です。治療内容は標準手順書(マニュアル)に則ったプログラムに従った最低5回の受診での指導・検査と、必要に応じたニコチン代替療法(通常はニコチンパッチの処方)です。
医療機関には禁煙指導の経験と構内の禁煙化等が必要なのでまだ限られていますが、徐々に増えており、治療可能かどうかは以下のホームページや医療機関に直接問いあわせることで事前にお調べください。保健所に問い合わせていただいても結構です。(山城南保健所 中村昇)
NPO法人「京都禁煙推進研究会」(http://web.kyoto-inet.or.jp/people/zensyou/)
インターネット禁煙マラソン(http://kinen-marathon.jp/)
(京都新聞 2006年9月27日)
今週は受動喫煙の防止についてのお話です。たばこの先端から立ち昇る煙と吸っている人が吐き出した煙を吸い込むことを受動喫煙といいます。これらの煙を通して吸っている煙よりも有害であることがわかっています。病気や障害を持っている方・こどもたち・妊婦さんたちは確実に受動喫煙から保護されなければなりません。
そのため2003年(平成15年)に施行された健康増進法では「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と定められ、施設の禁煙化や分煙化が進められています。
ただ残念なのは、この法律の規定が努力義務であるために、公共機関であっても分煙が不完全であったり、空気清浄機のようなガス成分の除去ができない無効な対策で良しとされている施設も見受けられることです。
「歩きたばこの規制」が全国で進められていますが、いよいよ京都市でも条例制定の検討が開始されるとのことです。身近な病院・学校や公共施設の禁煙化はもちろん、商業施設や飲食店の分煙化は、皆さんの声と賢明な選択で進むと思います。(山城南保健所 中村昇)
(京都新聞 2006年10月4日)
今週はこどもの喫煙防止の話です。2004(平成16)年度の国民栄養調査で、日本の喫煙率は着実に下がって男性約4割、女性約1割となりました。ただ、子育て世代である男性の30代は約6割、女性の20−30代が約2割と最高値を示していました。学校のカリキュラムに喫煙防止が組み入れられ、敷地内禁煙の学校も増えてきていますが、たばこを覚え、習慣化するのは相変わらず思春期です。これが子育て世代の高い喫煙率へとつながっていくのです。
相楽郡でも学校でも防煙教育が進められています。たばこを非行の入り口として処分をちらつかせて禁止するのではなく、依存性薬物の問題として健康の観点から科学的に扱っています。
思春期の喫煙の習慣化と関連して、朝食の欠食、コーヒー・紅茶・炭酸飲料の多飲などの食生活の乱れがあることがわかっています。これらの生活習慣も子育て世代に引き継がれ、働き盛り世代の肥満・高血圧・糖尿病や骨粗しょう症などの生活習慣病につながっていきます。
学校だけでは解決しない問題もあります。欧米と比べ安いたばこの価格、世界一の数の自動販売機やコンビニの存在、若者をターゲットにした広告の氾濫、マスコミに露出されるアイドルの喫煙シーンなどです。社会環境を整えることによって、初めからたばことは無縁の「無煙世代」を育てるのは大人の責任です。(山城南保健所 中村昇)
(京都新聞 2006年10月11日)
今年の夏、橋本龍太郎元首相が腸管虚血から胚血性ショックになり、「多臓器不全」で死亡したと報じられました。あまり聞き慣れない病名ですが、多臓器不全とは、身体にとって重要な臓器、たとえば脳、肺、心、肝、腎、消化管や凝固系、免疫系などのうち2つ以上が次々と短時間に障害を起こすことをいいます。
集中治療室(ICU)で懸命に治療しても救命率は非常に低く、2〜3臓器不全の人では約半分の人しか助かりません。4臓器不全以上の人で助かるのは1割です。
多臓器不全は身体に大きな障害、たとえば大手術、外傷性ショック、重症感染症、心不全、低酸素、悪性腫瘍、多発外傷などを受けたときにおこります。
多臓器不全の治療は外傷性「ショック」治療の歴史の集大成です。第1次世界大戦では出血性ショックの治療、第2次世界大戦では外傷性ショックの治療、朝鮮戦争では急性腎不全の治療、ベトナム戦争ではショック肺治療が進歩しました。
1974年にノルウェーで5歳の幼児が凍てついた川に転落し40分間もの心臓停止後に救命されたこと、また1980年代初頭の厳寒のフォークランド紛争で寒いところに置き去りにされた負傷兵の多くが助かったことにより低体温療法が見直され、現代脳蘇生法の重要な役割を担うようになりました。(たうち医院 田内逸人)
(京都新聞 2006年11月8日)
救命救急センターでの治療は、この30年間で、主に交通外傷との戦いから細菌による敗血性ショックとの戦いに変わりました。
脳の治療では、脳の腫れをひかせるために利尿剤を投与し手術で減圧、低体温療法を行います。
呼吸器不全には人口呼吸や肺理学療法を、心不全には強心昇圧剤を投与して大動脈バルーンパンピング(IABP)という装置で心臓の補助を行います。ベッドサイドで利用できる小型の人工心肺(PCPS)も使います。
腎不全には血液透析を行います。なかでも24時間血液浄化を行う持続的血液濾過透析(CHDF)を積極的に行います。
肝臓は複雑多機能な臓器で、代用できる人工臓器は無く、治療は薬物療法と経皮的中心静脈栄養(IVH)での栄養管理になります。
このように、多臓器不全の治療は多岐にわたります。
救命救急センターは医師、看護師、このほか多数の医療従事者の協力のもと命を守る「最後の砦」です。その体制維持には日夜多大な労力を要します。
24時間、重症救急患者を扱える救命救急センターは府内では京都市内に3ヵ所あるだけで、それ以外の市町村には1ヵ所もありません。群部に住む者にとって、行政、医師会、住民、マスコミの力で北部と南部にも救命救急センターができればと願っています。(たうち医院 田内逸人)
(京都新聞 2006年11月15日)
寒い時季に鼻かぜを起こすウイルスは100以上あることが知られています。鼻かぜは、普通ほっておいても自然に治りますが、一つだけ注意しておきたいウイルスによる鼻かぜがあります。
RSウイルス(RSV)で起こる鼻かぜです。大人では鼻水の多いかぜ(上気道炎)ですみますが、お年寄りや小さい子どもでは気管支炎や肺炎(下気道炎)をおこし重症化することが知られています。2歳ごろまでは、かかっても免疫抗体ができないため、シーズン中に何度も繰り返して感染発病します。強い鼻水症状から始まり、2歳未満で20%、6ヶ月までの乳児で40%ぐらいが下気道炎を起こします。鼻かぜでもぜろぜろと言い出したり、咳が出てきたときには小児科受診が必要です。
RSVでの肺炎は低年齢ほど死亡率が高く、1ヶ月未満児では突然死することもあります。肺や心臓の病気を持っている場合は特に危険で、心臓でRSV肺炎を起こすと死亡率は約40%という報告もあります。
咳やくしゃみでうつりますので、限界はありますがマスクでの予防は有用です。また、鼻水のついた衣類などを介しても感染しますから、汚染物の洗浄や手洗いも大切です。
毎年11月から1月頃まで流行しますので、この時期の大人の鼻かぜは小さい子には危険な場合があることを忘れないでおきましょう。(おづつみ医院 小堤國廣)
(京都新聞 2006年12月6日)